2025年10月23日 投稿者:八田さと子
町屋再生の先にある循環型社会「古材と循環」
小川町移住サポートセンターは、移住希望者への情報提供や支援と並行して、小川町停車場通り商店会と協働し「空き店舗未来会議」(注1)のメンバーとして町内の空き家や空き店舗の活用にも取り組んでいます。今回は、空き店舗の活用事例について報告させていただきます。
今回ご紹介するのは、元紳士服店だった旧つるやさん(この後は「つるや」と記述)の事例です。良い出会いがあり、紳士服店はアンティーク古材(貴重な古い材木や建具など)を販売するお店に生まれ変わりました。
つるやがあるのは、旧国道254号と呼ばれる道沿い。川越から秩父市へと続く道の一部で、古くは多くのお店が並び小川町の商業の中心地として賑やかだった通りです。今は閉まっているお店も多いのですが、移住サポートセンターや空き店舗未来会議の活動を通して徐々に関心を呼び、空き店舗活用への動きも起こっています。
空き店舗が活用されるには、いくつもの大切な要素がありますが、一番大切なのは、使って欲しいと思う家主さんと、借りたいと思う借り主が出会うこと。そしてその想いを双方が共有した上で建物が活用されること。つるやもこの空き店舗未来会議の活動から物件化。そして新生つるや(TSURUYA)になりました。
その経緯を、TSURUYAさん(話者表記部分はTSURUYAとし、敬称は略します)と空き店舗未来会議メンバーへのインタビューをもとに佐藤がレポートします。
佐藤(小川町移住サポートセンター):つるやの活用に至るまでを教えてください
TSURUYA:お借りするに至ったきっかけは空き店舗未来会議の活動でした。
未来会議:空き店舗をリストアップする中で出てきた物件の一つがつるやです。旧国道254号の商店街エリアに住むメンバーが区長(自治会長)さんに昔の周辺の様子などを教えていただく中で、つるやを含むいくつかの空き店舗の持ち主をご紹介いただけることになったんです。その後、持ち主からも貸しても良いという了承を得ることができ、活用に向けて話が進んでいきました。内覧会も開催できることに。
佐藤:次は、利用したい人を見つける段階になりますが、どんなプロセスや工夫があったのでしょうか?
未来会議:つるやのオーナーから貸しても良いとのご返答をいただき、どんな使い方が出来そうかを話し合う「空き店舗ビジョン会議」を開催しました。オーナーや近所の店の方にもご参加いただき、地域としてのニーズも伺いました。近隣の高齢者向けの食料品店が欲しいなどの意見もいただきました。
佐藤:ビジョン会議を経て活用する方を募集されたんですね。
未来会議:募集の段階でオーナーからの条件、地域のニーズについても掲載しました。
オーナーさんの要望としてはどんな業態でもよいけど、改修は自費でして欲しいとのことでした。雨漏りもあり、DIYではそれなりの経験がある方でないと難しい物件でもありました。
佐藤:さて、一方で、見学会を経て借り手となったTSURUYAさんについて伺って行きたいと思います。TSURUYAさんは、DIYの経験や建築の知識はどのように身に付けられたのですか?
TSURUYA:もともと建築への興味が強く、建設コンサルタントの仕事に就いていました。10年ほど前からは古い家のリノベーションにも携わっていて、東京都福生市に残る旧米軍ハウスをリリノベーションして、貸し出すことを始めました。
佐藤:小川町とのご縁は?
TSURUYA:先祖が住んでいたご縁があり、移住しました。
佐藤:TSURUYAさんと小川町の古い建物との出会いについて教えてください。
TSURUYA:小川町の中心部に位置する旧国道沿いの町並みに目を向けてみると、そこには町屋と呼ばれる歴史的文化的な価値の高い建物がずらっと並んでいることに気付いたんです。しかも、これらの商店のいくつもが看板建築(注2)だと分かりときめいてしまったんです。看板建築は、もともとの建物の道側に店舗の拡張部分を付け足した形になっているのですが、その部分を取り除くと昔ながらの町屋建築(注3)が現れます。そのことを想像するだけで、まるでディズニーランドにいるのではと思うほどワクワクしたのを覚えています。
佐藤:私は、営業していない商店や住宅に変わってしまっている通りを見て、単純に寂しい気持ちをいだいていました。TSURUYAさんが目をきらきらさせてお話しくださってびっくりしています。視点を変えたら物の価値が違って見えるのだなと新鮮な驚きを覚えました。
佐藤:さて、つるやは古材ショップですが、古材の活用に至った経緯を教えてください。
TSURUYA:福生市の旧米軍ハウスの活用に関わる中で、家主さんが取り壊しを選ばれることも多いんです。そこで出る材は、リノベーションの際に使えるであろう貴重な材でした。それが廃材として捨てられていくのはもったいないということで、古材の再利用にも取り組むようになりました。そうこうしていくと回収した古材の在庫が増えていき、倉庫もいっぱいに。なんとか材を有効活用できる場所、使ってくれる人に出会う機会はないかと考えていた時につるやの話を聞き、見学会に参加したんです。貴重な町屋建築であり、広い空間を確保できることから、ここで古材を展示販売しようと決めたんです。
佐藤:お店として利用するには改修が伴ったと思いますが、どのようにされたのですか?
TSURUYA:内装など改修の一部を自分や知り合いたちで進めました。自分たちではできない部分はプロに任せるという方法です。これによって、経費を抑えながら改修を進めることができました。ちなみに、改修には、町からの補助金(注4)70万円もいただいてトイレやキッチンなど水回りの改修をしました。その他、家賃の一部にも補助金を活用させてもらっています。
佐藤:日本ではあまり古材利用が活発とは聞きませんが、最近は変わったのですか?
TSURUYA:家を解体した時に出る古材は、以前は骨董として価値のある高価なものだけが出回っていました。使えるものでも多くが廃棄されてきたんです。古材の利用に変化が見られるようになったのはこの10年ほどです。古い家を改修しておしゃれに暮らすことが人気になったのが大きいと思います。それに加え、改修の一部を日曜大工的に自分ですることも一般的になってきましたよね。さらに、ヤフーオークションやメルカリなど、中古品を手軽に手にいれることができる環境も整ってきました。そういうことも古材利用の後押しになっていると思います。
佐藤:古材はどこで手に入れるのですか?
TSURUYA:私が販売する古材のほとんどは、小川町で入手したものです。その背景には、小川町が第2次世界大戦の戦火の影響を受けていなことがあります。町屋建築が残っていることと合わせて、古材の利用に関してもいろいろと巡り合わせが良かったのかもしれません。
佐藤:なるほど。小川町は一からの再開発がなかったからこその街並みであり、古材の存続なんですね。今後の古材循環に関するビジョンがあれば教えてください。
TSURUYA:解体される予定のある物件について、移住サポートセンターに連絡が来るような仕組みができれば、よりスムーズに古材を活用できると思っています。
佐藤:なるほど。メインのサービスとしてはお知らせしていませんが、解体業者さんを紹介することも実際にありました。オーナーさんは解体するしかないと思っていても、それに価値を感じる方もいて、そこをマッチングできたらとも思っています。解体を考えざるを得ない建物でもやっぱり親族のもので、ひょっとしたらオーナーさんにも思い出があって、できれば解体はしたくないという方もいらっしゃいます。
TSURUYA:そう。思い出や歴史が建物にはあるんですよね。だから、僕は回収した古材や建具の一つ一つがどこから来たのか、どんな店や人のものだったのかなど、ストーリーも伝えるようにしているんです。「使ってもらってうれしい」と元の持ち主に言ってもらえるのがやりがいでもあります。
佐藤:ストーリーがわかる古材、素敵ですね。リノベーションで綺麗になるだけでなく、地域の歴史や材のオーナーさんの思い出もまとう、そんな厚みのある空間になる気がします。
佐藤:今後のTSURUYAさんの目指すところや地域との関わりなどイメージがあれば教えてください。
TSURUYA:店の大きなテーマは、「古材と循環」です。循環は古材だけでなく、もう少し広い物を含めようと思っています。例えば、古着を扱うことや、お店で飲むコーヒーのかすの利用、そして農家さんから来るB級野菜などの販売などもして、循環の輪を感じられる店にしたいですね。
佐藤:資源と関係性の循環を象徴する小川町の有機農業とも親和性が高そうですね。
TSURUYA:そうですね。小川町は有機農業に関心を持って移住して来られた方も多いですよね。そういう方々には、建物、材の循環にも興味を持ってもらえそうじゃないですか。そして、ある意味、家や店を持つって、さらにこのまちに根を張ることになるわけです。つるやは古材を通じてDIYを相談する場にもなりますから、小川町に少し深く関わりたい人の集まる場になると思います。古材を中心にした大人のクラブハウスのような場所になったらいいですね。先ほど申し上げたとおり、つるやをはじめ小川町中心部には、歴史的な商店建築の町家が多数残っています。昔の町並みを現代風に再生して、新たににぎわいをつくりだせたらいいなと思っています。
佐藤:古材の売買にとどまらない、素敵な場になっていきそうですね。
(注1)空き店舗未来会議:小川町駅前周辺の商店で作る「停車場通り商店会」の下で、空き店舗の発掘と活用に取り組むグループ。商店会会員の他、地域おこし協力隊も運営メンバー。埼玉県や小川町役場、商工会などもサポートしている。
(注2)看板建築:昭和初期に登場した建築様式で、建物の正面を装飾して看板のように立ち上げていることからこの名前になっている。小川町の例では、古い町屋建築の通り側にこのような装飾部分を付け足した形になっている。
(注3)町屋建築:全国に様々な様式の町屋建築があり、定義は難しいが、ここではまちなかの主に商業に携わる世帯の店舗兼住宅のこと。道に面した間口の部分は幅が狭く、奥行きが長い、いわゆる「うなぎの寝床」状の建物。道に面した部分はお店になっていて、奥に行くと一部が住居になってるのが一つの形。小川町では、旧国道沿いに町屋建築が多い。
(注4)補助金:空き店舗等利活用事業・小川町起業創業等支援補助金。空き店舗の改修を支援する補助金で、令和7年度から改修費補助が最大100万円になった。「小川町空き店舗補助金」で検索。小川町役場にぎわい創出課が窓口。
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